
不動産にはさまざまな税金上の優遇措置が設けられているため、賃貸アパートやマンションなどの収益物件を所有すると、資産は増えるのに税金を安くすることが可能です。
この記事では不動産に関わる具体的な節税方法を解説します。
個人で不動産を持つと所得税・住民税を節税できる?
個人で不動産を持つと税制上の優遇を受けやすく、所得税や住民税の節税になることがあります。
不動産の場合、資産価値と同じ額の現金の8割を節税できるケースもあります。
固定資産税の軽減や賃貸物件としての収益を他の所得と相殺するなど、うまく活用すれば現金として保有するよりもお得になる点も多いです。
特にお金持ちと呼ばれる人は、現金を多く持つと高額の税金が課されるため、不動産として資産を保有するケースも少なくありません。
しかし不動産が節税対策になる面もある一方で、不動産を持っているだけでは節税にならないこともある点も理解しておく必要があります。
大事なポイントは「不動産所得を少なくすること」と「不動産所得のマイナスを他の所得と通算すること」の2点です。
賃貸物件で収益をあげている場合、不動産による収益と経費を相殺し、不動産所得を小さくすることで節税になります。
また、不動産賃貸以外にも事業を展開している場合は、不動産所得のマイナスと他の所得と収益を通算することで、節税や税金の還付を受けられることがあります。
帳簿上の収益をこまめに管理することで、効率的な節税につなげましょう。
不動産投資で節税しない方がいい人はいる?
「不動産投資は節税になる」と聞いて、その言葉を鵜呑みにするのは危険です。特に年収の増加が見込めない人や不動産知識が少ない人の場合、不動産投資で出費が大きく増え、生活が苦しくなる可能性があります。
不動産投資は購入初年度の費用や不動産取得税などを経費にすることで、赤字を一時的に作って節税につなげる方法です。
不動産の収益性が高ければ赤字額を上回る収益も期待できますが、収益性の高い不動産を見極めるには専門知識が不可欠です。
そのため、節税対策や不労所得を得るために、気軽に不動産投資を始めるのはおすすめできません。
家賃収入の税金対策・節税方法
不動産賃貸の家賃収入の税金対策・節税方法について、具体的な方法とポイントを解説します。
①青色申告をする
「所得税の青色申告承認申請書」を提出することにより、青色申告をすることができるようになります。その年の赤字を翌年以降に繰り越したり、他の所得と相殺できたり、10万円の特別控除も受けられます。
さらに事業的規模(5棟10室以上)になれば、所得から65万円も控除することができるようになります。
複式簿記による記帳をしなければならないという要件はありますが、所得税・住民税が25%だとすると65万円×25%=約16万円分の税金が浮くため、やらない手はないでしょう。
②配偶者を青色事業専従者にする
青色申告をしている人は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出することにより、配偶者に給与やボーナスを払うことができます。所得を分散することで、低い税率を使うことが可能になり節税になります。
③交際費、交通費、事務所代、水道光熱費を計上する
物件の空き室を1日でも早く埋めてもらうために、管理会社の人たちとの飲食は交際費として経費計上することができます。セミナーの参加費はもちろん、そのあとの情報交換会の支出も交際費として経費になります。
領収書のない交通費も、日にち、行き先、目的などをメモして残しておけば事業にかかわるものであれば経費に計上できます。
物件の見回りや購入検討のための物件調査に使った車にかかる経費は、プライベート使用分を除いて経費に計上できます。
ガソリン代や修理代はもちろん、車両代、自動車にかかる税金、車検代などです。賃貸マンションで暮らしている人は、支払い家賃や、水道光熱費の一部を事業経費とすることも可能です。
④小規模事業共済に加入する
個人事業者の退職金制度で、年間上限84万円までを積み立てることができます。そしてこの毎年の掛け金が所得控除として所得から控除できるようになります。
預金をいくら積み立てても経費にはなりませんが、この制度を活用すれば経費化できるようになります。
⑤管理会社を設立する
自ら管理会社を設立し、アパートやマンションを経営する方法もあります。個人の場合とは違い、法人化して物件の管理を行うと管理にかかった費用を経費として計上できます。役員報酬や退職金、生命保険料なども経費として認められることから、大幅な節税効果になるでしょう。
また、個人と会社では社会的信用度にも違いがあり、融資を受けやすくなります。
一方で、会社設立には初期費用がかかるとともに、経理業務も複雑化する点には注意すべきです。
自分自身が経理知識を持つか、経理知識を持つ人材を雇用するなど、しっかりと帳簿管理できることが条件になります。
⑥中古アパートを購入する
中古アパートを購入し、減価償却費を活用して節税する方法もあります。例えば新築アパートを購入した場合、購入費を次の計算式で減価償却費として計上できます。
【償却率×(1÷耐用年数)】
不動産は材質に応じて法定耐用年数が異なるため、購入前に耐用年数をチェックしましょう。
そして中古アパートの中でも耐用年数を超えたもの、耐用年数がもう少しで超えそうな物件は減価償却費を短期間に大きな額で計上できます。
特に木造アパートは法定耐用年数が22年と短く、法定耐用年数を超えてからは耐用年数が4年となるため、短期間で大幅な節税効果があるのでおすすめです。
⑦法人化する
不動産所得やその他の所得で年収1,000万円を超える人の場合、法人化して所得税を抑える方法がおすすめです。日本では累進課税制度を採用しており、年収900万円を超えてからは所得税率が33%となります。所得税率は最大で45%まで上がるため、不動産所得が大きい人ほど法人化するメリットは大きくなります。
一方、法人税は年収800万円を超えると一律23%であり、住民税まで含めても30%を少し超える程度です。
不動産所得を含めた全体の所得の多い人ほど、法人化して節税することをおすすめします。
⑧赤字が出た場合は損益通算を行う
不動産経営で赤字が出た場合、他の所得と相殺する損益通算を活用し、所得税を軽減できます。損益通算とは、不動産所得での赤字と給与所得を含めた他の所得での黒字を相殺し、総所得を減らす方法です。
わかりやすい例では、アパート経営で500万円の赤字が出たとしても、給与所得などで1,000万円になるなら、総所得は500万円にできる仕組みです。
不動産を購入した初年度は赤字になることも珍しくないため、損益通算で総所得を減らし、所得税の節税対策にするとよいでしょう。
⑨専門家に相談する
アパート・マンション経営は、知識のない初心者がいきなり始めるにはリスクの高い投資です。経費として計上できるもの、節税方法などを詳しく知るためにも、専門家への相談が不可欠です。
特に毎年の確定申告では、どれだけの収益があり赤字がどのくらいになったか正確に計算しなければ、重い税金の負担がのしかかる可能性もあります。
そのため不動産投資やアパート・マンション経営を行うなら、経験と実績の豊富な専門家に相談しましょう。
まとめ
不動産投資やアパート・マンション経営では、初期費用の負担はもちろん、毎年かかる税金の負担をいかに減らすかがポイントになります。
個人事業主であれば青色確定申告や配偶者の青色事業専従者にしたり、経費を細かく管理・計上したり、小規模事業共済に加入したりする方法があります。
法人化するなら年収がどのくらいになるか、経理を任せられる人材がいるかといった点も重要です。
現金を保有するよりも、不動産のほうが大幅な節税対策になることは確かですから、それぞれの事情に合わせて最適な節税方法を選択しましょう。
監修者

大沼 春香(おおぬま はるか)
宅地建物取引士
埼玉県・千葉県・東京都一部に拠点を置く
不動産売買仲介会社に15年以上従事。
自身も不動産購入を経験し「初心者にもわかりやすい」
実態に基づいたパンフレット・資料に定評がある。
最近はWEBや自社セミナーなどでの情報発信も行っている。